金沢家族看護研究会

お知らせ

2015.09.25

「渡辺式」家族看護研究会は、第22回家族看護学会で2つのワークショップを行いました。

 「渡辺式」家族看護研究会のメンバー(代表:櫻井大輔、顧問:柳原清子/鈴木和子)は、
9月5日(土)6日(日)の第22回家族看護学会(神奈川県小田原市)で、2つのワークショップを企画・実施しました。
両ワークショップ共に、参加者107名、120名と大変盛況で、会場に入りきれない人が多勢いました。
「渡辺式」家族看護モデルは、現場の「Here and Now」-
ここでの解決‐をモットーとしていますが、家族看護(アセスメントから調整スキルまでの一貫した対応の技)を求める看護職の熱い思いを感じました。
その内容と状況をお知らせします。

【ワークショップ1】
家族アセスメント/支援モデルその6
-ここまで来た「渡辺式」! 意思決定支援モデルの解説

<メンバー紹介>

柳原 清子 (金沢大学 保健学系 看護科学)
木村 藍子 (東海大学病院 血液・移植病棟)
澤田 紀子 (順天堂大学病院 混合病棟)
浅野 悠佳 (広島大学病院 先進治療病棟)
藤井 淳子 (東京女子医大病院 社会支援部)
今井 美佳 (佐久医療センター 患者サポートセンター)
福山 幸子 (在宅療法支援ステーション 楓の風 町田)
横田 益美  (訪問看護ステーション けやき)

<講義‐概要>

 渡辺式」とは、システム思考で現場を俯瞰し、人々の相互作用における悪循環パターンをみきわめて、認識に働きかけ、認識が変わることで行動が変化して、課題の解決がはかられていくモデルです。例年、日本家族看護学会で発表を続けてきましたが、今回の発表で6年目となります。
 「渡辺式」モデルは、<家族‐看護師関係パターン10>と、<家族間関係パターン7>が作られており、今回は第3モデルである<意思決定支援モデル>を解説します。前者2つが、軋轢・揉め事(コンフリクト)解決モデルであるのに対して、<意思決定支援モデル>は、個人の状況認識・自己認識・関係認識を確認しながら、家族システム内および家族システム外(=医療システム、在宅システム)で、人々(患者・家族および援助者)が先の見通しを立て決断していけるよう調整をはかっていく、そのプロセスを図式化したものです。
 医療の現場とは、絶えざる意思決定(先の見通し・方針)が求められる場で、複数の人々の価値や立場が複雑に絡むために、倫理的問題が発生しやすくなります。したがって支援プロセスを可視化し、メンバーがそれを共有する中で調整が進んでいけば、解決力は増すと考えます。「渡辺式」の<意思決定支援モデル>は、現場で可視化、共有化のために使ってもらえればと思います。

<事例‐アセスメント-意思決定支援計画>

 Aさん(40代後半)女性、DCM(拡張型心筋症)の診断を受け、心臓移植まで人工心臓での補助が必要と診断された。妹の介護協力を行うことを前提に同意の上、人工心臓挿入術を行った。手術後、病状は安定し、退院に向けてトレーニングの開始時期になった。
しかし、手術後しばらくして、世話をしてくれることになっていた妹と連絡が取れなくなり、家族も妹と音信不通になった。もともと家族内には不協和音があり、今回急激な病状進行で、やむを得ず同意書にサインをしたが、(人工心臓を入れた患者を24時間見守るために)「仕事もできないなんてとんでもない」という妹と、(介護人がなく)「家には帰れないのでは」と精神的に不安定になっている患者、医師は「家族は無責任!」と怒りをあらわにしている状況である。
 家族システム内には、独身の患者と母(病弱)と、妹、弟(それぞれ世帯を持つ)がいる。それぞれの自己・状況・関係認識をアセスメントし、家族の持っている力を査定する。そもそも患者自身は、自律・自立した人であり、経済力およびマネジメント力を持っている。患者自身の力(自助)と経済力での社会サービス購入を行いながら、やっていく方法を提言する。一方医療者には、家族を追い詰めないことを共有し、現実的にどこで折り合っていけるか、家族(弟を窓口にして)にテーブルについてもらうようにして調整をはかっていく。
以上の支援計画が提示されました。

<会場でのディスカッション>

 発表後、会場からは次々と事例や支援計画をめぐって質問や意見が多く出されました。その質疑応答内容は、

  1. 人工心臓挿入の家族調整は前もって行われるべきでは?⇒ 急激な病状悪化であった。
  2. 患者会や家族会などの情報提供は?⇒移植などの高度先進医療の現場では組織化されていない。障害、難病などの人たちは組織化されており、在宅療養に有効な場合がある。
  3. 今回のケースは経済力があったけれど、ない場合の調整とは?病棟の一般ナースでは何をする?⇒ 今回のケースは退院調整ナースの意思決定支援方法を紹介した。経済力がない場合は、共助、公助の活用で、医療ソーシャルワーカーと協働する。病棟では鬱っぽくなっている患者ケアを中心に行ってほしい。
  4. 家族調整というけれど、拒否している妹などを病院に呼べるのか?⇒今かろうじて窓口になっている弟を通して、家族内の調整をはかってもらうようにする。(家族はシステムなので、一人が動けば次々に動き出していける可能性がある)

等の質疑応答がありました。

【ワークショップ2】
家族支援CNS登場!『家族の不仲・もめごと』の調整術
-現場思考の家族アセスメント/家族調整スキルの解説-

<メンバー紹介>

櫻井 大輔  (神奈川県立足柄上病院 看護局)
三枝 真理  (東海大学医学部付属病院 移植コーディネーター)
榎本 美由貴 (在宅療養支援ステーション楓の風 国立)
松本 修一  (滋賀県立成人病センター 救急特殊病棟)
園川 雄二  (東海大学医学部付属病院 整形外科病棟)
石渡 未来  (横浜市立市民病院 緩和ケア病棟)
森川 真理  (横浜市立大学附属病院 CCU)
宇都宮 望  (東海大学医学部付属病院 重症ケア病棟)
佐藤 律子  (神奈川県立こども医療センター NICU)

<ワークショップのねらい>

 このワークショップでは、家族支援専門看護師(CNS)の家族間調整(複数面接技術)の実践を紹介したいと考えました。
CNSの行う家族間調整とは、ハードルの高い名人芸をやっているのではなく、家族看護の理論に基づいた実践モデルを使って、ステップ(分析⇒計画⇒実施)を踏みながら、関わりのスキルを使って成果を出していくことだと思っています。その実践モデルとして、我々は、「渡辺式」家族アセスメント/支援モデルを使っています。これまで多く、渡辺式の家族アセスメント方法を紹介してきましたが、今回はアセスメントから家族面接(調整)まで一貫した流れを計画しました。
実際にアセスメントに則って、会場で家族面接の場面をロールプレイして、面接は対話形成の方法を紹介したいと思います。(看護の関わりのスキルとして、傾聴と共感が強調されますが、確かめる、表現のうながし、順序だて、現実提示、合意による確認など、多くの面接スキルが組み合わさって、対話が形成されていることを伝えたいと思います。)

<事例の概要>

 患者はALSに罹患している70歳代女性。夫70歳代との2人暮らし。子供は長女40歳代(既婚)と次女40歳代(独身)。患者のALSはこの数年間で急激に悪化し、ADLは全介助が必要となり、主に夫が自宅で介護していたが、夫の疲労が蓄積し暴言を吐くようになった。次女は仕事を辞め、介護を手伝うようになった。患者は次女を頼り、次女の生活費をすべて出していた。
今回、患者の病状進行で非侵襲的人工呼吸器導入および胃瘻造設目的にて入院となった。
今後の療養先の話し合いで、夫は自宅退院を拒否して転院を希望し、次女は自宅退院を主張し、意向は平行線のままである。夫(父)は、次女が家で患者を看たいのは「お金がもらえなくなるからだ」と話し、次女は「患者ができる限り笑って過ごせるようにしたい」、「あいつ(父)は最悪なやつ。昔から父と姉とは意見が合わない。家族全体で話し合うというのは絶対に無理だと思います」と話している。

<渡辺式」家族看護モデルでのアセスメント>

 検討場面としては、Aさんの退院を前に家族の意見が合わず争いとなっている場面とし、分析対象者は(患者)、夫、次女とする。
第一ステップで各自の困り事(ストレス認知)と第二ステップで各自の対応・対処(対処行動)、第三ステップで背景(家族発達段階、歴史、関係性、絆意識、社会関係、諸事情など)を記述し、各自の文脈をえがく。

 患者は元々、非常に社交的であり、家庭の中の要として主婦役割・母親役割・妻役割を担ってきた経緯がある。文脈は<(ALSとなり)夫の世話にならなければならないこと、次女の助けを借りることに心苦しさを感じながらも、余生(先が長くないことは知っており、人工呼吸器の装着は拒否を表明している)は在宅でいたい。困っているのは、夫と次女の仲が元々悪く、自分のことで2人の言い争いが絶えず、先の見通しが立たないこと>と思っているようである。

 次女の文脈は<母が難病になって、父が世話をしていたけど、乱暴な対応で母が可哀想になり、私は仕事をやめて世話するようになった。母はズ~ッと私の味方。母が笑って過ごせるようにしてあげたい。今後に向けては、ヘルパーなど社会資源も調べたい。まったく父は最悪、「おまえは金(生活費)が欲しいだけだろう」などと言う。そして今、母を施設(病院)へ入れようとしている。姉とも昔から意見が合わない。私のことを頼りにしてくれる母の「自宅で過ごしたい」という願いを叶えてあげたい。とにかく家族で相談するなんて無理に決まってる>という内容が推察される。

 一方夫は<妻の病状が進行している。しゃべれなくなり、食べられなくなり、呼吸が苦しくなって・・・。そんな姿を見ていることが辛い。本人や次女は「自宅へ」などと言うが、世話を自分一人でやっていくのは到底無理だ。施設(病院)へ行くことを本人に納得してほしい。それにしても、あいつ(次女)は勝手なことを言う。なんだかんだと口出しをして、以前も施設とトラブルを起こした。仕事を辞めてしまって、金が欲しいから(母親の)世話をすると言っているに違いない。医療者が(次女の)意見を真に受けて、自宅へなどと決めてほしくない。責任もってやれるやつではなのだから>の文脈が仮説として推察される。
 ここでの、夫(父)と次女の相互作用は、夫(父)⇒次女は「不信感」、次女⇒夫(父)は「反発・不満」となり、悪循環となっている
家族支援専門看護師(CNS)の援助計画としては
(1)患者のAさん自身の意向、希望をまず確認する。
(2)夫(父)と次女の悪循環を調整し、今後の療養体制を家族に整えてもらう。
をあげた。

<家族面接のねらいとロールプレイの実際>

 ワークショップでのロールプレイは、CNSのふだんの面接過程を参加者に知ってもらうことを目的に、敢えてシナリオ等は準備せず、Aさん(無言)、夫、次女、そしてCNS役になりきって、家族の複数面接の場面を展開しました。

 CNS役は面接意図および流れとして、
①「話し合いなんて無理!」という家族だから、患者Aさんのいる場での話し合いの場を設定したい。
②面接スキルとしては、全体(個々の人の表情、反応をつかまえながら、全体を俯瞰)を視野に入れて、個々の 主張をしっかり言ってもらう。
③主張に対して、他のメンバーがどう思うかもしっかり聞く。を計画し、
 a.集まってもらったことに謝意を述べる。
 b.Aさん自身に話し合いに入ってもらう。
 c.それぞれの家族成員に自分の本音を述べてもらい、それをAさんに知ってもらう。
 d.夫と次女に「Aさんの願いは何だと思うか」を改めて話してもらう。
 e.意見交換できたこと(同じテーブルにつけたこと)を評価する、の流れで面接を実施したとのことでした。

 一方夫役は、<まくたてる次女の意見に全体の流れが行ってしまわず、自分の意見を聞いてもらえたので、助かった>と感想を述べ、次女役は<言いたいことは言えた。母への思いも話せた。話し合いは無理と思っていたけど皆で話せた。(CNSが)父側にだんだん寄っているように感じたけど…>とのことでした。無言のAさん役は、<家族がそれぞれに私(患者)のことを考えてくれていることがわかった。直接の言葉(考え)が聞けてよかった>とのことでした。

 今回のワークショップのねらいは、成功例を提示することでも、家族(面接)をきれいにまとめることでもなく、CNS達はロールプレイ等を通して、スキルをみがくことに努めていることを知ってもらうことでした。参加者の熱心で食い入るようなまなざしで、会場は熱気に包まれておりました。

<会場でのディスカッション>

 ディスカッションの時間は少なかったのですが、積極的な質問がありました。いわく「次女の『母が可哀想。だから私が…』の主張は、意味が大きいと考えるが、そのことのアセスメントが弱く、介入がなかった。母娘関係をしっかりと分析しとらえるべきでは」というものでした。CNSからのコメントとしては、<家族の歴史的な関係の中では、次女が家族の中で浮き上がり、それを母親がかばってきたような構図が見えなくもないけれど、今回の合同面接では敢えて触れなかった。(「渡辺式」は臨床の、今ここでの解決をめざす方法論で、家族の根深い問題・課題を掘り下げることはしない)。次女には屈折した思いなどもあるようなので、CNSとしては、個人面接を計画したいと考えます>と表明された。

* 次年度の家族看護学会では、(アセスメントに基づく)面接スキルを、事例の特徴に合わせたパターンで分類してみたいと考えています。

(文責、柳原)

<ワークショップの風景写真>

ワークショップの風景写真

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